『映画と文藝: 日本の文豪が表象する映像世界』
清水 純子 箸
彩流社/ ISBN-13: 978-4779126482/ 定価: 3,000円 + 税/
四六判寸法: 12.8 x 2.4 x 18.8 cm/ 393ページ / 並製/
発売日:2020年1月21日
1 清少納言 『枕草子』:ピーター・グリーナウェイのパロディ化
2 芥川龍之介 『藪の中』:多様な読みを許す複数の視点
3 江戸川乱歩 『陰獣』:闇に葬られた欲望
4 谷崎潤一郎 『卍』:性の境界侵犯か
5 『鍵』:ファム・ファタール夢幻/殺しの女装
6 『瘋癲老人日記』:ファム・ファタール夢幻/
女神に溺れるパラフィリア老人
7 川端康成 『眠れる美女』:老人の禁じられた遊び
8 『美しさと哀しみと』:サイコホラーの側面
9 三島由紀夫 『午後の曳航』:ナルシストの視線
一般に原作が優れていればいるほど、その映画化が原作を凌ぐのは難しいとされている。名立たる文豪たちが活躍した二十世紀は、サイコロジーとその応用が盛んな時代だった。谷崎、川端、三島、乱歩の小説に表れたSM嗜好、人格分裂、母性への固着は、フロイトを始めとする精神分析学者が、その原因を明らかにして人間の理解を深めようと苦心してきたテーマでもあった。日本近代の文学者たちは、その欧米経由の精神分析を使用し、日本人らしさ、日本人のアイデンティティを見定めようとし、ほの暗い日本家屋の闇にも似た人間の暗い部分の描写と精緻な分析を推し進め、人間存在の「陰」の部分へのまなざしを深めていった。そこに、外国の映画人たちは深く共感したに違いないのである。本書は、陰影礼賛に満ちた文豪の小説とその映画についての理解を、さらに深めるための批評集である。